宿泊客に地域の魅力発信 人口20万人以下のまちで展開
14年に事業開始 宿泊施設二つ運営
クジラは、SEKAI HOTELを通じて商店街のにぎわいを取り戻す。SEKAI HOTELは商店街の一角を宿泊施設に改修。宿泊客がホテルで渡されたクーポンを使用することで、商店街で提携する飲食店にて割引価格などで楽しむことができる。
ホテルの企画・開発はクジラが担当。グループ会社としてSEKAI HOTEL(同)を2014年に設立し、ホテルの運営を行っている。ホテルで接客にあたるスタッフも、同社で直雇用する。
24年9月期の売上高は、2社合計で6億5000万円。全3拠点を改修し、25年2月末時点でそのうち2拠点を運営中だ。1拠点目は大阪市に「SEKAI HOTEL西九条」をオープンし、現在は休業中。2拠点目は18年に大阪府東大阪市で「SEKAI HOTEL布施」を、3拠点目は22年に富山県高岡市で「SEKAI HOTEL Takaoka(タカオカ)」を設立した。

西九条、布施以降は、SEKAI HOTELを企画するエリアの目安の一つを「人口20万人以下のエリアや市町村」としている。高岡市の人口は、25年2月末時点で約16万人だ。クジラがさまざまな地方を視察する中で、20万人を下回るあたりから「百貨店が廃業した」「映画館がなくなった」など、地域住民にとってネガティブな変化が起こりやすくなっている印象があったという。
事業面で見れば、あえて人口が減少しているエリアを狙うことで、そこに進出するライバル会社も少ない。

最大年7000人超利用 観光需要を創出
SEKAI HOTELを単なる宿泊施設ではなく、周辺を観光する糸口としてつくる。1拠点目のSEKAI HOTEL西九条はJR大阪環状線西九条駅から徒歩約5分の場所にある。人通りが少なかった商店街や住宅街に点在していた13棟の空き店舗を宿泊施設に改修した。現在は約半数を売却したが、営業当時は最大80人が宿泊でき、年間7000人超が利用することもあった。
特徴的なのは、宿泊客に同じ商店街内で利用できる提携店のクーポン「SEKAI PASS(セカイパス)」を配布し、商店街の店を利用してもらう仕組みを作ったことだ。宿泊客は、割引価格で食べたり、ワンドリンクもしくは1品無料などの特典が付いたりする。
西九条駅周辺を選んだのは、元々このエリアの不動産的価値が低く見られていたことが理由だ。西九条駅は四つの路線が通っており、関西国際空港やテーマパーク「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」にも直通でアクセスすることができるなど、宿泊需要のあるエリアだと感じていた。だが、一方で長屋や私道が多く、不動産活用のハードルが高いという側面もあった。

矢野浩一社長は「話題性のある施設をオープンし、観光客を呼び込んだ。有名な観光地ではなくとも、どこでも地域を盛り上げることができる事業モデルをつくった。自治体も、こういった施設があることでPRの材料にすることができるのではないか」と話す。
2拠点目、3拠点目のホテルシリーズも商店街の一角につくった。同社で各商店街の空き店舗を所有するか、投資家に取得してもらい同社で借り上げたり、地主から借り上げたりなど、スキームはさまざまだ。いずれの拠点も同じSEKAI PASSを使って、商店街全体を観光してもらうきっかけをつくり出している。
資源・資本・人が軸 地産地消掲げる
矢野社長は「経営するにあたっては、事業内容の自走性、持続性、独自性が重要と考えている」という。自走性は、他社でも運営できる、再現性のある事業モデルであることを指す。
持続性は、そのエリアの持つ文化や特色を、事業を通していかに生かし続けるかを意味している。SEKAI HOTELをつくった商店街を起点に、その町の持つ産業や地元のお店の事業と絡め、持続させていくかを重要視する。
独自性は他社にない事業であることだという。独自性の高い事業であることで、一般消費者からの関心を集めることができ、集客力を高めることが可能になる。
地域の活性化を目指すにあたり、同社は「資源・資本・人材の地産地消」を方針とする。そのエリアにある資源を最大限活用。資本を持つ地元の有力者に、活性化につながる取り組みに投資してもらう。そして、地元住民を雇用することで、地域の雇用機会創出にもつなげる。
こういった同社の事業方針について共感を得られた投資家から資金を調達し、運営費に充てている。
不定期で勉強会 CMの意図探る
観光客を呼び込むうえで、物件の話題性のほかにブランディングが重要なファクターだという。施設をつくるだけではなく、一般消費者に対して施設の魅力を伝えていくことが、集客の要になる。
魅力的なブランドを構築するため、同社では1〜2カ月に1度、有志社員が集まる勉強会を開催している。社員や、矢野社長が良いと思ったテレビCMを取り上げ「この広告が伝えたいこととは何か?」について議論し合う。一度の勉強会で3時間ほど費やすこともあるという。

矢野社長は「答えのある問いではないが、議論を通して社員の考え方に『上流から考える』ようになったという変化が出ていると感じる」と話す。
矢野社長の言う「上流から考える」とは、例えば物件のリノベーションを受注し、顧客から『リビングを広くしたい』という依頼があった場合に『なぜ広くしたいのか』と問う、といった具合だ。要望に単純に応えるだけではなく、意図をくみ取ろうとする習慣を持つようにする。
こういった思考力の鍛錬により、自社施設のブランディングの際にも、本当に必要なものは何か、各社員が理解したうえで構築することができるという。こういった社風の醸成には、社員一人一人が自ら仕事に積極的になる姿勢が必要だ。それを実現するため、同社は組織運営において自律的なチームに意思決定権を分散させるホラクラシーを採用する。現場社員に裁量を持たせることで、社員が能動的に仕事に取り組むようなサイクルを生む。
同ホテルの企画・運営に関わる従業員は22人。施設の施工デザインの担当者が業務委託を含み9人、営業が6人、施工管理が業務委託を含み4人、SEKAI HOTELでホテルの運営にあたるのが4人だ。16年からは新卒採用を行っている。
「新入社員であっても、教わる側が主体的であるべきだと考えている。代わりに、何か質問があれば、先輩社員は忙しい中でも手を止めて話を聞く姿勢でいる。学べる体制は整えられていると思う。普段から学ぶ側は主体性が、教える側はそれを受け入れることが重要であることを伝えていることで、そういった風土が醸成されている」
27年9月期までに、SEKAI HOTELの拠点をもう一つ増やし、オープンを目指す。目標売上高は10億円だ。

クジラ
大阪市
矢野 浩一社長




