「泊まれる蔵」 6拠点展開

泊まれる蔵プロジェクト
(The Bath&Bed Team)


エンジョイワークス

使われなくなった蔵を、一棟貸しの宿として再生する。エンジョイワークスが手がける「泊まれる蔵プロジェクト」は、地域に眠る遊休不動産を起点に、人と人、そして人とまちの関係性を編み直す試みとして全国に広がりを見せている。

遊休不動産を地域に開く宿へ

クラファンで再生 共感する人増やす

 神奈川県葉山町にある「The Bath&Bed Hayama」は、明治期から残る古い蔵をリノベーションした一棟貸しの宿泊施設だ。宿泊者は1階の広いジャグジーとレインシャワー付きバスルームでゆったりとした時間を過ごし、2階のベッドスペースでは映画や読書を楽しめる。シンプルな設計ながらぜいたくな滞在ができることが特徴だ。

 宿泊定員は最大4人。素泊まりプランが基本で、一棟貸しとしての宿泊料金の平均単価は1泊あたり3万円台後半を目安としている。施設の周辺にはカフェや飲食店も多く、地元シェフによるケータリングサービスも用意。地域ならではの食を味わうことができる。

The Bath&Bed Hayamaの外観
The Bath&Bed Hayamaの外観

 同施設の稼働率は、繁忙期には90%を超えるという。クラウドファンディングで600万円の出資を募り、4年2カ月の運用期間を2022年9月に終了。実績利回りは5.0%だった。

 この宿は、エンジョイワークスが進める「泊まれる蔵プロジェクト(The Bath&Bed Team)」の第1号だ。単なる宿泊施設ではなく、地域との関係性や体験を重視した新しい滞在モデルの原点でもある。

 プロジェクトのスタートは17年。「宿をつくる」という明確なゴールを目指して始まったわけではなく、地域住民やクリエーター、生活や旅に関心のある人たちを集め、対話とワークショップを重ねながらコンセプトをつくっていった。福田和則社長は「不動産や設計、ファンドは手段に過ぎず、目的は多様な人と価値を共につくることにある」と語る。

 18年、葉山の蔵に対して小規模不動産特定共同事業を活用したファンドを組成。募集は短期間で満額となり、宿泊施設としての運営をスタートさせた。出資者は37人だった。ファンドは資金調達のためだけではなく、プロジェクトに共感する人を巻き込む仕組みとして機能した。

クローバー型のジャグジーが付いた浴室
洗面台
洗面台
クローバー型のジャグジーが付いた浴室

官・学とも連携 全国100棟開設へ

 蔵を活用するに至った理由として福田社長は「蔵は日本中に数多くあり、役割を終えて荷物置き場になっているなど遊休化しやすい建物だと思っている。構造的には壁が厚く、窓が少ない。断熱材をたくさん入れなくても一定の居住性が確保できるため活用しやすいと考えた」と話す。

 倉庫として使われてきた蔵はどれもサイズが似通っていて、全国どこでも同じような内装プランニングがしやすいというのも拠点拡大の観点で大きな利点となる。全国で6棟を展開しているが、どの地域でも、1階に大きな浴室とリビング空間、2階をベッドスペースにするという基本構成は大きく変えていない。

長野県小布施町
の蔵
近隣の農家でぶどうやりんごの収穫体験ができる長野県小布施町の蔵

 これまでに富山県立山町、長野県小布施町と佐久穂町、愛媛県松山市、栃木県鹿沼市など地域ごとの特色を生かした蔵の再生が実施された。同プロジェクトへの関心も高まりつつあり、金沢大学では蔵の発掘や運営オペレーションの構築に授業の一環として取り組んでいる。埼玉県川越市では地元の電鉄会社や自治体と連携した取り組みも進む。エンジョイワークスは将来的に全国で100棟の展開を目指す。

愛媛県松山市の蔵
愛媛県松山市の蔵は温泉地で有名な道後にある

 泊まれる蔵の魅力は、宿そのものだけにとどまらない。宿泊者がまちに出る設計であるため、地域の飲食店や商店での消費が生まれ、地元経済への波及効果が期待される。また宿泊者がSNSなどで体験を共有することで、ローカルな地域でもブランド価値が高まる好循環も生まれている。

 泊まれる蔵プロジェクトの評価軸について福田社長は「関わる人の数」と「地域との関係性の深さ」を重要な指標として挙げる。宿泊体験の新しい価値を提示しつつ、その先にある地域との共創の未来を描いている。


福田 和則 社長の写真

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福田 和則 社長